突然の怪我やアクシデント、虫歯などで、前歯が欠ける・・・このような状況に陥ったとき、あまりの出来事にパニックになってしまうものです。

「放置しても大丈夫?」「歯科医院・クリニックですぐに治療をしてもらったほうがいい?」「欠けた前歯をそのままにすると危ない?」など、いろいろな考えや不安が浮かんできます。

前歯が欠けてしまった場合には、状況に合わせた上での適切な対処が必要です。そこで今回は、歯科治療の専門家としての立場から、前歯が欠けた場合の対処法や放置する危険性についてお話しします。

前歯が少し欠けただけでも、治療が必要

転んだときや歯をぶつけたとき、または硬いものを噛んだとき、前歯が欠けてしまうことがあります。

少し欠けた場合には「大して痛みはないから、歯科治療を受ける必要はない」と判断してしまう方が少なくありませんが、放置は危険です。

歯が欠けたまま放置するリスク

前歯が欠けたときに放置すると、『虫歯のリスクが高まる』『舌がんになる』『歯のバランスが悪くなる』などの問題が生じます

歯が欠けると表面のエナメル質がはがれ、奥にある象牙質が出てきます。エナメル質より柔らかい象牙質がむき出しの状態になると、虫歯菌による悪影響を避けにくくなり、虫歯になるリスクが高まるケースが多いです。

欠けた歯が長時間下に触れることによって舌にがんができるケースや、対抗歯が伸びて噛み合わせのバランスが悪くなったり顎関節が痛くなったりして、口腔環境も身体も不健康な状態になってしまうケースもあります。

前歯が欠けたとき、治療を受ける必要があるケース

上にあげたようなリスクを考えると、前歯が欠けたら決して放置せず、必要な治療を受けることが理想です。

特に、

  • 欠けた部分がとがっている
  • 見た目に問題がある
  • 痛みを感じる

場合には、なるべくすぐに歯科医院・クリニックを受診し、必要な歯科治療を受けましょう。口腔環境や全体的な体調、精神的なストレスを考慮しても、早めの確認と歯科治療が何よりも大事です。

前歯が欠けた場合の対処法

前歯が突然欠けてしまい、歯科医院・クリニックを受診するまでに日が空いている場合、現時点での状況を悪化させないための対策が必要です。

以下、すぐにできる対処法をお伝えしますので、応急処置として活用してください。

欠けた部分に触れない

事故や怪我などで欠けてしまった前歯は、非常にデリケートな状態になっています。

雑菌が入ってしまうと、仮に接着・再植可能なケースだったとしても、接着や再植できなくなってしまいます。

欠けた歯を指や舌で触ってしまうと、雑菌の繁殖や炎症のリスクを高めてしまうため、気になっても極力触れないように気をつけましょう。

状況が深刻な場合には、脱臼のようなさらなる怪我のリスクも高くなります。

欠けた歯を保存する

欠けた歯が残っている場合は、なるべく保存しておきましょう。

欠けた状況によって変わりますが、歯科医院・クリニックでつけてもらえる場合があるためです。

細菌感染が一番恐れるべきことです。保湿を徹底し、きちんと消毒されているガーゼを使用して保存することを徹底しましょう。

消毒にはレベルがありますが、熱菌までされているものだと確実です。

保存液に浸して保存することが確実ですが、薬局ではあまり取り扱っていない場合もあります。学校の保健室などでは置いてある場合も多いので、学校の生徒である場合は、保健室を頼るのが得策です。

また、他に確実に保存しやすく手に入りやすいものが、「牛乳」です。「牛乳」に漬けておくことで、歯の保存ができます。他にも、「生理食塩水」などでも可能です。

なるべく早くに歯科医院・クリニックを受診する

欠けた歯に触らないことや保湿を徹底することはもちろん大切なポイントですが、もっとも大切なポイントはなるべく早くに歯科医院・クリニックを受診し、必要な治療を受けることです。

素人目線での保存だと心もとない場合も多いので、歯科医院に電話するなどして、指示を仰ぐのも良いでしょう。

また、塗れたガーゼや保存液でその場をしのげても、欠けた当時から時間がたてばたつほどに歯は劣化していきます。目安として、30分以内には必ず正しい保存方法で保存することが必須になってきます。

前歯が欠けたときの治療法

前歯に限らず、歯が欠けた場合、歯科治療では欠損を補う『補綴』を行います。

欠損した歯の状態や患者さまが希望される治療内容に応じて、方法が変わります。

歯の欠損が小さく、歯冠部のみ傷ついている場合

歯の破損が深刻ではなく、また欠けた歯が小さい場合は、欠けた歯を削って詰め物を入れる方法が一般的です。

歯の欠損によってとがってしまった部分があれば少し削り、『コンポットレジン(プラスチック)』素材を使って詰め物を進めていきます。

歯が大きく欠け、神経の露出が見られる場合

神経が露出するほど深刻な状態にある場合やエナメル質の部分が大きく破損している場合は、詰め物や被せ物の治療だけでは不十分です

そこで問題になっている神経や周辺組織を取り除き、歯の根をきれいにして薬を詰め、被せ物をつけます。ほかの治療法に比べて複雑なプロセスが必要になりますが、歯と口腔環境を守るためには欠かせない手段です。

欠けた歯の状態が良く、雑菌が入っているなどのトラブルがなければ、接着が可能です。

歯科用の接着剤を使って欠けた歯と元の歯を結合させ、元通りの状態に近づけます。状態によって接着が難しいと判断される場合には、とがっている場所を削って歯型を取り、被せ物で欠損部分を補います。

歯の脱臼が見られる場合

強い衝撃を受けて歯が脱臼してしまった場合には、さらに複雑な治療やプロセスが必要になります。歯が横に動いたり歯茎のなかに埋まったりした状態では、そのままにしておくと非常に危険であるためです。

まずレントゲンで患部の状態や炎症を確認し、歯をもとの位置に戻し、隣接している歯牙と接着し固定します。手や足で捻挫してしまった際の治療のイメージと似ています。

その後、経過観察をしていきます。最低3ヶ月ぐらい待機し、その後、神経が正常値か異常値かを専用の機器を使い確認をします。

一定の指標をクリアしていると、それは正常とみなされ、接着剤を除去して治療完了です。正常値に達さなかった場合には、時間を置いて再度経過観察するか、根本を治療するか、検討します。

根元から折れている場合の治療法

根元から折れている場合にも、慎重な治療が必要です。

歯を支える土台が残っている場合には被せ物をするか、ブリッジを土台にして義歯での治療を行います。大きく欠けている場合には抜歯を行い、義歯やインプラントなどで治療を進めます

このように、前歯が欠けた場合の治療は状況によって変わるケースがほとんどです。

使われる素材も、保険適用ではプラスチックや金属、自由診療ではセラミックやジルコニアが使われるなど、患者さまの希望によって異なってきます。

納得できる治療を受けられるよう、歯科医師からきちんと説明をしてもらい、適切な素材を選んでいきましょう。

前歯が欠けてしまったら?

歯はダイアモンドと同じように頑強でありながら、突然の衝撃には弱く、はかないものです。永久歯になったら二度と生えてこないこともあり、転倒や怪我や病気などで欠けてしまうと、あまりのショックに慌ててしまう方も多いかもしれません。

しかし歯が欠けてもその後に歯を保存する、早めに歯科医院を受診する、などの対応がきちんとできていれば、欠ける前とほとんど変わらない状態で日常生活を送れるようになります。

歯科医院・クリニックで適切な治療を受け、詰め物や被せ物をすることで、見た目を元の状態に限りなく近づけることができるのです。その後は歯への衝撃を受けないように心がけていれば、それほど不自由さを感じることなく毎日を過ごせます。

だからこそ、前歯が欠けてしまった後にどのような対応をするかが、とても大切なポイントになってくると言えるでしょう。

歯科治療の専門家の立場からお話しすると、一番避けたいことは自己判断による放置です。放置によるリスクでもお話ししたように、歯の欠損は体力的にも精神的にも、私たちが想像する以上の問題をもたらします。

「1本くらいなら大丈夫」「見た目にあまり異変が見られないし、痛みを感じていないから、このまま放置しよう」という考えと選択が、後になって思わぬ悲劇を持ってくるケースも、決して少なくありません。

早めの治療で不安を解消し、安心して過ごせる毎日を取り戻しましょう。前歯が欠けて困っている方は、ぜひ歯科医院に相談し、歯科医師と一緒に可能な手段を考えていきましょう。