歯を白く、美しくする治療法である「ラミネートベニア」。歯の表面をごく薄く削り、そこにセラミック、ジルコニア等のシェルを特殊な接着剤を利用して貼り付けるという審美歯科の施術法です。表に厚みが出る事を気にしなければ削らなくても、歯の表面を粗造にする事で可能です。通常は「歯を削る」という過程が特徴のこの施術ですが、歯のエナメル質には神経が通っていないため、基本的には痛みがありません。

ただし、まれに「ラミネートベニアで痛みがあった」という経験談があるのも事実です。これは主にラミネートベニアの施術後に起こり得ることなのですが、これにはどういった理由があるのでしょうか。この施術法を試してみたいと考えている方は、事前に、痛みなどのリスクを把握し、自分自身がそうした事態に遭遇した場合の対処法などを把握しておくべきでしょう。

今回は、ラミネートベニアの施術において発生し得る「痛み」について、詳しくご説明します。

ラミネートベニアの施術中の痛みとは?

まずはラミネートベニアの施術中の痛み(表面を削る場合)について考えてみましょう。いわゆる「虫歯」の治療においては、歯を削るために痛みを感じたことがある方も多いかもしれません。ラミネートベニアの歯を削る工程で痛みがあるのでしょうか。

ラミネートベニアの施術で歯を削る場合は0.3~0.8mmほど歯の表面だけを削る

まず、ラミネートベニアの治療では、歯の「歯茎から出ている部分」に対して行われます。歯は、外側から「エナメル質」「象牙質」「歯髄」となっており、ラミネートベニアで削るのは「エナメル質」の表面の0.3~0.8mm程度となります。これはセラミック系ラミネートベニアの推奨される厚さが最低0.3mmの為です。(0.3mmの厚さが気にならなければ削らなくても可能です。)

◇歯の組織

・エナメル質…歯を覆う硬い組織。色は半透明で、歯が白く見えるのはエナメル質の下の層である「象牙質」の色が透けて見えるため。ラミネートベニアで削るのはこの部分。

・象牙質…「ハイドロキシアパタイト」というリン酸カルシウムの一種と、コラーゲンなどからできる組織。柔らかいため、エナメル質で覆われている必要がある。この部分に触れると、痛みが発生する。

・歯髄(しずい)…歯の神経のこと。歯髄を抜かれると歯は「失活歯(死んだ歯)」となり、血液が通わなくなるため、極端に強度を失ったり、変色したりする。

エナメル質は歯の最も外側にあり、神経が通っていない部分です。エナメル質の厚みは場所にもよりますが、2~3mm程度の厚みがあり、ラミネートベニアのシェルを貼るために削る厚さ(0.3~0.8mm)では、痛みを感じることがほとんどありません。なお、エナメル質は「人体でもっとも硬い場所」と言われていますが、シェルに一般的使われるセラミック系はこれよりも高い硬度を持っています。

歯の神経に触らず痛みはなし。基本的に麻酔を使わずに施術が可能

エナメル質を削る際には痛みを感じることがないため、基本的には麻酔を使わず施術することが可能です。

ただし、エナメル質が虫歯や老化などの原因でもともと削れており、象牙質が露出している場合には、その近くを削った振動などでも痛みを感じることがあるかもしれません。事前に診察がありますので、普段から「知覚過敏」などでお悩みの方は相談してみてください。

◇知覚過敏とは

歯に冷たい食べ物や飲み物が当たった際や、歯ブラシでブラッシングした際に一過性の痛みを感じる症状のことです。虫歯などによる継続的な痛みを除きます。エナメル質で覆われていた象牙質がなんらかの原因によって露出し、外からの刺激が神経に伝わりやすくなってしまうことが原因です。

ラミネートベニアで稀に痛みやしみる症状がでてしまう場合

ラミネートベニアを貼り付けることで直接痛みが出る可能性は非常に低いのですが、まれに次のようなトラブルが発生し、痛みに繋がってしまうこともあります。それぞれのトラブルがどのように痛みに繋がるかをご説明します。

ラミネートベニアを接着したセメント(接着剤)による刺激

ラミネートベニアのセラミックチップを貼り付けるために歯を削り、そこにセメント(接着剤)を塗布した後にチップを乗せます。この時に利用するセメントが神経への刺激となり、しみてしまう可能性があると言われています。接着剤そのものは人体に害なないものであり、安心して利用できるものです。

この場合、時間の経過により気にならなくなることもあるため、経過観察が必要です。

また、知覚過敏に近い痛みであれば知覚過敏用の対策をする事で落ち着くことが考えられます。

ラミネートベニア接着の技術的な問題

ラミネートベニアは、専門の技能を持った歯科医の施術によって行われますが、実際には、経験値によって技術に差が出てきてしまいます。たとえば、接着の際のセメントの厚みがありすぎると、セラミックチップがきちんと固定せずに隙間ができる、貼り合わせがずれる、歪むといったトラブルが発生します。このような技術レベルの問題から、痛みに繋がってしまうことがあります。一度貼り付けたチップがずれたり歪んだりした場合には、ラミネートベニアのつくり直しが必要です。

こういったトラブルを避けるためには、できるだけ審美歯科や矯正歯科に詳しく、技術のある歯科を探して施術を依頼することが重要です。施術をしようと考える歯科医についてはいくつかの候補を挙げ、情報を集めてから、最終的に施術をお願いする歯科医を決めるようにしましょう。

◇ホームページで信頼できる歯科かどうかを知るヒント

・ラミネートベニアのメリットだけでなく、トラブルについての説明がある

・十分だと感じられるだけのアフターフォローがある

・施術後の生活習慣に対しても話をしてくれる(マウスピースの必要性など)

・どのような方針で治療を行っているのかの説明がある

・症例・施術例の提示がある

・歯科医のラミネートベニア施術経験がどの程度あるのかなどの説明がある

また、第三者による口コミも読む価値があるでしょう。治療の痛みについては個人差も大きいため鵜呑みにするのは危険ですが、「痛みについてどんな対応をされたのか」などについては参考になるものがあると考えられます。

ラミネートベニア接着後の歯肉との際等のセラミックの破折

ラミネートベニアのセラミックチップを接着した後、歯茎との境目でセラミックが破折してしまうと、セラミックが安定しなくなる、折れた先が歯茎に当たるなどして痛みに繋がることがあります。このような場合、ラミネートベニアを再度つくり直すことになります。

つくり直しになるほどのトラブルは決して頻繁に発生するものではありませんが、歯の角度や噛み合わせ、食べる習慣、歯に負担を与えたり歯並びを変えてしまいうる癖、あるいは硬いものを食べたり、歯磨きといった衝撃でも、ある程度トラブルに繋がる危険性があるものです。また、就寝時などに使用するマウスピース(ラミネートを守る役目)をしばらくすると使わなくなる事です。

施術の前には医師による丁寧なカウンセリングや治療の手順・リスクについての説明がありますが、歯の状態には個人差があるため、予測できないトラブルが発生します。万が一のことを考えて、ラミネートベニアにはどんな危険性があるかをきちんと把握しておきましょう。施術後、異変に気づいたらすぐ医師に相談してください。

厚みによる「違和感」を覚える可能性も

痛みとは異なりますが、ラミネートベニアによる「違和感」を訴える人もいます。歯を削って薄いシェルを貼るため、歯に厚みが出ることが原因です。また、シェルによって歯が長くなる場合もあります。施術から時間が経てば慣れるものですが、「口を閉じにくくなってしまった」という方もいるため、施術後の違和感だけでなく、実際のトラブルがないか、しっかりと予後観察をする必要があるでしょう。そのためにも、削る前にシュミュレーション用ベニアを対象歯に着け、実際に完成のイメージを体感する事をお勧めします。

基本的には事前のカウンセリングや検査で咬合状態を診査なども行われますので、このようなリスクは少ないと考えられます。

ラミネートベニアの歯への負担とは?

ラミネートベニアは通常、歯の表面を覆うエナメル質をごく薄く削る工程があります。歯への負担が非常に少ない施術と言われていますが、歯への負担が「まったくない」とは言い切れません。どういった負担があり、日常生活への支障などはあるのでしょうか。

 健康なエナメル質を削るため歯の強度が落ちる可能性も

ラミネートベニアでは、健康なエナメル質を削ってしまうことがあります。エナメル質は歯の最も外側を覆う硬い組織であり、歯の内部の象牙質や神経を守っています。このエナメル質が薄くなることで、次のようなトラブルが発生する可能性があります。

・歯の強度が落ちてしまう

・熱や振動が神経に伝わりやすくなる

・象牙質が露出し、冷たい水などを口に入れるとしみやすくなる(知覚過敏)

ただし、削った部分にシェルを貼るため、熱や振動からの影響は少なくなり、「日常生活でラミネートベニアをしたことを忘れてしまっている」というほど馴染んでいる方も多いものです。

施術を受ける前にラミネートベニア治療が向いているか相談を

次のような方は、ラミネートベニアをすることにより、歯への負担が大きくなってしまったり、ラミネートベニアをしても取れてしまったりする危険性があります。

・歯並びが悪い

・歯並びが悪くなる癖や習慣がある

(習慣の例…頬杖をつく、よく噛まない、口を開けたままでいることが多い、口で呼吸をしている、歯ぎしりや噛み締めの癖がある、舌で前歯を押す癖がある、唇を噛む癖がある)

・歯茎が健康ではない、歯槽膿漏が発生している

・過去、虫歯の治療を多くしている

場合によってはラミネートベニアの施術が「向いていない」可能性もあります。施術を受ける前に、歯科医に相談するようにしましょう。ホワイトニング治療など、ラミネートベニア以外で歯を美しくすることができる治療もあります。

◇歯槽膿漏とは…

歯茎が雑菌に感染し、炎症を起こす病気です。腫れ、膿み、出血などを伴います。原因は歯磨き不足・歯のメンテナンス不足であり、歯茎と歯の間に歯の汚れである「歯垢」が溜まり、そこに雑菌が繁殖するためです。歯槽膿漏を放置すると、「歯周病」という骨の病気に発展し、歯の根元が緩くなって抜けてしまう恐れもあります。ラミネートベニアを実施する場合には、先に完治させておくべきだと考えましょう。

ラミネートベニアの寿命とは?

ラミネートベニアで使われるシェル(チップ)は、セラミックが多く使われてきました。近年、審美により優れるガラス系や強度が優れるジルコニアなども選ばれています。一般的なセラミックは天然歯(もともと生えている歯)よりも硬く、丈夫なことで知られていますが、やはりその寿命(耐久年数)は永久ではありません。では、ラミネートベニアの寿命はどれほどと考えるべきなのでしょうか。

ラミネートベニアの平均寿命は10~20年程度

ラミネートベニアの寿命(耐久年数)は、一般的に『10~20年程度』と考えられています。セラミックそのものは硬く丈夫であっても、シェルを歯に貼り付けるために利用する接着剤(セメント)が劣化してしまい、取れてしまうという例が多いようです。

施術後4~5年で劣化してしまう接着剤もあり、注意が必要です。近年はより長持ちするものが開発されていますが、医師によって利用する接着剤にも違いがあるため、歯科医で耐久年数を確認するようにしてください。

施術から3年以上経過している場合には接着の確認のため受診する

ラミネートベニアを施術したら、必ず定期的なメンテナンスのために歯科医を受診するようにしましょう。とくに3年以上経過している場合には、ご自身が気づかない劣化もあるかもしれません。小さなトラブルから痛みに繋がってしまうことのないよう、十分に気をつけてください。特にマウスピースの劣化や紛失の際は早めに受診をお勧め致します。

【まとめ】

ラミネートベニアは痛みのない施術ではありますが、「削る」という工程があること、また技術的な問題もあり、「痛みを感じる可能性はあるかもしれない」という知識を持っていたほうがよいでしょう。万が一ご自分が痛みを感じた場合、冷静に対応することができるからです。歯並び、虫歯、歯槽膿漏など、他の歯のトラブルが引き起こす痛みもありますので、必ず医師に相談するようにしましょう。

また、少しでもトラブルが起きにくくなるよう、事前のカウンセリングはしっかりと受けるようにしてください。歯科で症例、施術例の案内があると思いますが、ご自身でもきちんと情報収集しておくことをおすすめします。